「それで何処に行くの?!何処に向かっているの?」
抱き抱えられながら聞いた。






「我が所領へ…。」






にっこり笑う。






「それって…。」
嫌な予感がした。






「闇の境界線の向こう側。」





闇の境界線…。即ち魔物の住処。






「私大丈夫?食べられるんじゃない…。」






「俺がさせない…。消し炭になりたくないやつはしないだろ。」






さらっと怖いこと言うバンパイア。






「これはいらないだろう。」
小さな十字架…。それを投げ捨てようとした。






「ダメ!!」






金銀対になっている十字架…。





「これだけはダメなの…。」





目を細めるノア…。






「好きにしろ。だが誰にも見せるな…。胸にしまっておけ。」






服の中にしまって隠す。
たったひとつの形見。
小さな銀の十字架…。マリーが家族になった証。





小さな金の十字架…。親友の形見。






「これだけはダメなの…。」






胸を押さえる。






更にスピードは速まり、人間には感知出来ないように走り抜ける。






もう道はわからない。後戻りは出来ない。
後ろを振り返る。ただ景色が過ぎるだけ。






私には何もない。
ただ闇に進んでいる。
ただ闇に進んで行こう。
この魔物と共に…。
彼は…。ノアは何故か悪い人には見えなくて…。
恐怖はあるのに…。安心している自分がいた。
神に身を捧げたはずだった。大切なものは家族だけだった。





一緒にいればいるほど…。惹かれてしまう。
もう逃げられない。
逃げているはずなのに何から逃げるのか…。だから、貴方を信じる。
もう私には何もない。
あるのは、貴方と共に進むと決めたことだけ…。





「ノア…。貴方を信じる。」