ブラッククロス

白い部屋にひとつだけ無機質な箱が置かれていた。





男が一人立ち見下ろした。
「これが最善なのだ…。」





鋭い瞳は真っ直ぐに…天を仰いだ。白い天井を…。
地震が起こり、箱から魔方陣が白い部屋中に拡がる。





丸で蝕むように…。部屋を覆い、外に出たがるように動いていた。






部屋を封鎖した男はカツンカツン…と足音を響かせながら顔色ひとつ変えずに去っていく。






人は弱い。






故に何かにすがりたい…と…。





思いの強さ故に…。






禁忌を犯す…。






それが出来てしまうから…。恐ろしい…。






エントランスには白いフードのセブンハウンド。





「終わった…。」




「クルセイド(十字軍)は…。」





「まだだ…。」






切迫した男は去っていく。






ガシャン!






再び鏡が割れる…。






新しい渦が出来上がり、飲み込んでいく。






足掻いても流れには逆らえず…。
無垢な魂もまた流れていく。
声も出ない…。






場面が変わっていく…。





「またケンカしたの?ネージュ…。」






氷の弓矢でそこらへんが氷漬けになっていた。
振り返るアイスブルーの瞳が…。





「ローズ…。ここで何してるんだい?」





苦笑しながら、
「噴水を見に…。」






噴水は暑いのに時を止めて、凍っている。





「涼しい…。」






綺麗な瞳は細く笑うと手を広げた。





「うわぁ!綺麗!」





氷の蝶が舞いながら肩に止まる。
暫くすると溶けて消える。




「魔法使いみたい…。」





「そうか?それはそれで面白い…。」






滅多に笑わないアイスブルーの瞳が優しく微笑んでいた。





「ローズ…。」






手を取る。






「何?」






「いや…。何でもない。」





「ノアとケンカしたの?」





「いつものことだ…。彼奴は…。」






クスクス…。






「何が可笑しい?」






「あなた達は似てるわ…。」






闇の世界は…。幸せに暮らしていた。






「ネージュ…。抱え込み過ぎないで…。きっと…。」





氷の花を咲かせて…。






「僕には自由なんてない…。」