炎は踊るかのように彼女を包む。





炎の指揮者は魔法使いのようだった。
瞳は爛々と光る。口元は面白そうに笑っていた…。





「ふむ…。拉致が開かないな。」






そういうと後ろに気配を感じた。





結界内に侵入しようと骨の手が延びていた。





パリ…。





結界がややひび割れる。




「貴方は何者ですか?」




ぴくりと指が動いた…。




「何者?それは俺が聞きたい…。面白いことを聞くな。見ての通り化物だ。」





真っ直ぐな瞳が見ていた。
揺らぐ瞳が見えた。






「綺麗…。」





「!」





驚く瞳は自らを化物という。
素直に自然に彼女は口に出していた。綺麗だと…。





結界が割れた。





「貴方に私は殺せない…。」





「クックッ…。」





首を掴むと持ち上げる、歪む顔を楽しんで…。
首に牙を立て…。






突然、化物は呻いて頭を抱える。





「なっ何をした…。」





「何も…。」






哀しげな顔が見え…。
仰いだ空には青く光る月が見えた。





バカな…。この俺が…。こんな虫けらに…。
意識は途切れ、香しい花の香りがした。






青く光る月の下に獣が横たわり。
銀の後輪を頭に称える白き聖女が立っていた…。





しゃがんだ彼女はゆっくりと額に触れ…。顔に掛かる髪を上げた。





どうしてか…。この悪魔が何処か自分と似ているような、そんな気がした。




「貴方は誰?」






そっと囁いた…。





だからか油断してしまったのか鈍い痛みが走る。




何も怖いものは悪魔の類いだけではない。





人は時に悪魔よりも…。




物理的な結界は張っていなかった。





欲にまみれた人は…。





人を人が襲うのだから…。