だが止めが入る…。






「ワォン!」





「クロウ?どうしたの?」





「ちっ…。犬が…。」





手を離すノア。






クロウと呼ばれたはぐれ狼。





今晩は…。満月。






獣が人に変わっていく。





「ソワレ…。ん?」





顔を近づける。






「さっきはありがとう!」





気にするでもなく無邪気にいう。





「無自覚か?変わった聖女だな…。いやそれもいいんだけどな…。ん?」





火の粉が飛ぶ。





「あっぶねぇ!」






「ぶつぶつ五月蝿…。犬が…。あれは俺のものだ。」





「はぁ?吸血鬼はこれだからよ。」





にらみ合い。






「二人とも何してるの?」





「「なんでもない。」」





夕闇それは昼と夜の狭間の時間。
太陽と月…。
運がよければ星もある全てがそろう時間。






今は夜、月の支配下…。





聖女は月を見る…。





「あの月何かを守ってるみたい。」





「…。そうだな。」






何処か遠くへ意識を飛ばしている吸血鬼。





「私は…。」






「俺は今のお前がいればいい…。」





珍しく言葉にしていた。





「聖女なんて立派なものじゃないのに私は…。」




記憶はうっすら断片的にあるだけ。





記憶と呼ぶかも疑わしい。





「俺と共にあれ…。その身が果てるまで。ソワレ…。」





「あの時から私はノアについていくことに決めたから…。」





変わるものと変わらないものがある。






「お前が…。いればいい…。」





優しく口づける。優しく…。優しく…。






「俺を忘れんな…。」






「!」






我に帰る少女。






「リュビ!」






バサバサ!






夜の空には黒いシルエット、聖女と吸血鬼が飛ぶ。





その下を狼が走り抜ける。
「待てよー!」