夕闇迫る黄昏時に現れる黒い天馬。
それを見た村人は恐れをなして家に入る。





家路を急がせる為に子どもに聞かせる言い伝え…。おとぎ話…。
夜は暗くて怖いのだと…。
だから静かに眠りなさい…。
出ないと黒い天馬にさらわれるよ…。





もうすぐ、月の光が煌々とある村を照らそうとしている。





ある兄妹が家路を目指す。





「お兄ちゃん…。」





泣き始める妹…。






「泣くなよ…。大丈夫。な?」





「うん。グスン…。」





遊びに夢中になって帰るのが遅れた。兄は自分も泣きそうなのを我慢する。妹が不安になるから。




「うぉぉぉーん!」





「ギャアギャア!!」





森から獣の声…。狼や烏が鳴いている。





「お兄ちゃん!」
しがみつく妹。





小走りになりながら家を目指す。





がさり…。






「!」





不味い…。





勘のよい兄は身を翻して妹を引っ張って走る。





子どもの足ではすぐ追い付かれた。





妹を背に庇う。
「来るな!あっちいけ!」





子どもの目には大人がいる。





「助けてやろうてぇのに。」





どう見ても人さらいにしか見えない。





「来るな!」






ジリジリと歩みよる五人の大人がいる。





獣なんかよりコイツらの方がよっぽど恐ろしい。




「何処からいく?」





ナイフを出した男がきいた。





「やっぱり小さい方か…。」





ニタリと笑いながら近寄る。悪寒がした。





「誰か!助けて!」





叫ぶがここは村外れ…。





小さな叫び声は森に吸い込まれる。
言い付けを守らなかったばかりに…。





「面倒だ。」





ナイフが兄に降り下ろされた。






「な?なんだありゃ?!」





森の中に黄緑色の炎が浮かんでいた。





「鬼火…。」






そして、ナイフが落ちる。





「なんだこいつら!何処から来やがった!」





狼の群れに囲まれていた。





あぁ…。神様、母さん父さんごめんなさい。






絶望しか兄にはなかった。





空から声が落ちる。






「あなた達何してるの?」





凛とした声が落ちる。