「ノア?」
何かが違った。
漆黒の鎧の毛並…。





「俺は彼奴で彼奴は俺だ。」





「同じじゃないの?」






「同じであって同じではない…。」





「私にはわからないけど。」





「ククッ…。」
立ち上がり、目の前に近づいて見下ろす。





「死にたいか?ローズ…。」





後ろに後退る魔女…。
十字架がいつの間にか後ろに立っていた。





結界を張るも通過する。





「!」






荊が自由を奪い十字架に縛られる。





「私は…。」






獣の後ろに大きな鏡が見えた。





「私は…。」
私は…どうしたいの…。
私は…。貴方には…。






漆黒の獣が首にゆっくり牙をはめていく。





「その魂…。」





苦しくはない…。
でも何かが…。
失われていくようで、回りの闇が深く…。体に入るようで…。





薄れる意識が最後に言った…。
「愛してる…。」






鏡が光。白い長い美しい指が見えた。






「ローズ!」






漆黒のバンパイア。
漆黒の獣。






横に走る炎。
荊は燃え上がる。






私を捕らえて離さないのは漆黒のバンパイア。





でもね…。あれは…。あれは…。





漆黒の獣が唸りながら紅い瞳を輝かせ走り。
真っ直ぐ此方に来た。






魔女はそれを受け止める。首元から抱き締めた。
「貴方を愛してる…。だから恐れないで自分自身を…。」






魔女は目を閉じた。






銀の魔方陣が広がっていく。






風の音が聞こえた。






目を開ければ月が見えた。
銀の三日月。
赤い小さな星が中にある。





そして…。





漆黒のバンパイアが抱きしめていた。





「ローズ…。」






魔女は笑っていた。
「お帰りなさい。ノア…。」






魔女は知っている。
この紅い瞳の獣は燃え上がるように何かを欲していると。





血の封印…。
魔女は知っている。
魔女は自分の血を混ぜた。
封印する力を更に…。そう彼が望んでいたから。
愛するものを守るためなら魔女は血を惜しまなかった。