「ローズ…。」






目を開ければ漆黒のバンパイア。
「ノア。」






抱きしめるバンパイア。
いつもは不敵な顔が不安な表情をしている。





「どうしたの?何かあった?」





強く抱きしめられ、首筋ににキスが落ちる。
赤い華が咲いていく。





「何処にも行くな…。」





「何処にも行かないわ…。」





貴方は…。一人で走っているの?






ねぇ、ノア…。






こんなに近いのに…。
こんなに近いのに…。






近くて…。遠い…。






いつの間にか意識が何処に行っていた。
誤魔化すように…。
キスを落とす…。
もっと、もっと…。





愛しいバンパイアはそれに答えるように…。
深く…。深く…。





愛されていることが嬉しいのに…。
何処か淋しいのは何故…。




この不安を消すぐらい。もっと…。もっと…。






不意に離れる暖かさに…。
「出かける…。何か有ればグラスに頼め。」






手を伸ばしたのに届かない。
瞬きをすればそこに姿はなくて…。
シーツはまだ暖かい。






「何かが…。あれはノア?」





何かが…。
何かを感じていた。
何かざわざわするような感覚に自分自身を抱きしめる。





それを証明することは出来ない。
ただそこにあるのは恐怖…。あれは…。あれは…狂気を纏うもの。





彼が恐るのは何か…。






何かが足りない…。






横にある大きな鏡が彼女を見ていた。






何かが走っていた。
森ノ宮に何かが…。





木々がないように走り抜ける。音が響いた。走り抜ける。





魔物は縮み上がり逃げていく。





逃げ遅れたものは…。






悲鳴を上げる暇もなく、命を終えた。





何かが足りない…。
何かが足りない…。






燃え上がる瞳が妖しく光。獲物を探しては火種にしていく。
走る漆黒の獣は…。誰にも止めることは出来ない。





「…。くれ…。くれ。」





森ノ宮は狩場と化していた。





宮の主が動き出す…。






炎は止まることを知らない。
ただ満たす為に燃え盛る。