「そうだな…。」






驚いた彼女の顔が見えた。





「ネージュ様は…。優しすぎです。」






「何?」






まるですぐに溶けてしまうしまうような儚い雪の結晶。





透明で美しい氷の結晶。





「我が主は貴方のみ…。」





銀の手錠は消えていた。
「グラス…。」






微笑んだバンパイアが言う。
「何なりと我が主…。」





心は…。もういらない。




噛みつくようにくちびるを貪った。






彼女は囁く。
「凍てつかせて…。」






心は…。いらない。






心の音が響いた。






月はない。それが答えだ。
雪明かりだけが私の道行きだ。






全てを閉ざす。何ものからも汚されることがないように。
この高貴な身は孤独こそ相応しい。
全てを凍てつかせて…。





心は…。いらない。






溶けてしまうなら閉ざしてしまおう。






氷の貴公子は静かに何処かへ消えていく。
誰かが手引きしたのか。





時折氷の蝶が飛んでいた。
あの頃には戻れない。






魔女はただ噴水を見上げながら一人…。






境界線の意味を考えている。






内なる声を聞いて問いかける。
彼はアイスブルーの瞳は…。
綺麗に清んでいた。






魔女が愛したのは闇の世界の闇の生き物。





氷の貴公子は清く美しく。





魔女が愛したのは闇の獣。





相反する魔力に引き寄せられたのか…。それとも…。





氷の貴公子は行くへ知れず。






玉座…。それは富と名声の証し。






それを…。






闇の獣は投げ出した。
魔女が死んだ…。






獣は走り去る。






そして…。氷の貴公子が玉座に座れと…。






全てを捨てたものに座れと言った…。





欲しいものが手に入ったのだと…。
答えは違った。






本当に欲しかったもの…。それは一輪の薔薇…。





怒りが玉座を凍てつかせる。
封じる魔力…。
王は全てを凍てつかせる。





刃向かったものには容赦なく。
闇の世界に君臨し、氷の王冠が冷たく輝く。





そこに月は見えなかった。





「ネージュ様…。」






あるのは凍てついた心…。
本来の氷の貴公子の姿。