街角の陰から、彼は弁当屋の様子を伺っていた。

「やぁ、キャベツを切っていた君」
 私は気さくに話し掛けた。

「あ、ああ、いつもの会社員さん?」
 彼はしっかりとした口調で答えた。

「あれ、私のことを知っているのですか」

「いつも見てますよ」

「これは驚きだな。キャベツを切っていて、私の方など見ていないと思っていたが」

「指先と包丁の感覚で切っていますから、専ら、僕は街の通りを見ていましたよ」