この人間の言葉をたくみに話す異形な者は、日光東照宮の守り神『眠り猫』
つい数日前、栃木県で別れたばかりだと言うのに、何故この地に居るのだろうか?
それをオッサンは懸命に、聞き出している所だ。
「にゃんだ。相変わらず騒がしいヤツだなメガネ」
「いいから質問に答えなさい!」
質問に答えるが為に、眠り猫はその小さな手を前に掲げると、自慢気に爪を晒し出してきた。
「我が輩、床屋を始めたんだ。家康様の守護はもう必要ないのは知ってるだろう? 暇だから、髪切り歩きの旅をしながら遊びに来てやったのだ」
と、床屋?
その目の前に出している爪で切ってやると言わんばかりに、豪快に素振りをしている。
それを礼子も一緒になって、腕を振るう。
「プクク、爪で髪切るなんて名案。流石アタシ♪ 名前は『バーバ眠り猫』ね」
「お前の悪い入れ知恵かい。余計な事をこの無知な猫に吹き込むな」
無知なのは当たり前。
何しろ今まで東照宮を出た事が、無かったのだから。
徳川家康公の警備……
今まではそれを行っていたが、魂が完全に消え去ってしまった今となっては、それも意味なし。
その器であった肉体(骨)や墓石を護る警備も携わってはいるが、霊体がなくなってしまえばそこまで重要なものではないので、羽を伸ばすために飛び出したのだ。
「でも何故だろうか? 髪を伸ばして切ってくれと言う霊は、礼子しかいニャかった」
「当たり前だから。霊は髪伸びんから」
……大方礼子も、ただ髪が切りたかったから、前にノリで教えたものだろう



