「ご気分は?」


控えめに、春樹が声を掛ける。


「かなり良くなってきたわ。きっと、この景色のおかげね」


目の前には、あまりにも雄大な海と、壮大な入道雲を抱いた空があった。


「この景色を見れただけでも、価値はあったわ」

「何よりです」


春樹がそう告げたとき、何かに気付いたように視線を巡らせた。


「どうかした?」

「いえ、少し不穏な視線が……」


祖父が極道である以上、恵理夜も極道の組長《カシラ》の孫娘、という目で見られている。

つまり、普通の少女よりも危険なものが日常にあるということだ。

――実際、恵理夜の両親は抗争に巻き込まれて亡くなっていた。