「じゃあ教科書28ページ。『如月つごもりごろ』、昨日の続きから」

担当の神田が黒板に達筆な文字で書いてゆく。

「文人君っ、教科書見してー」

「また忘れたのか?仕方ないな」

俺は机を寄せながら小声でお願いする。

俺の席は窓側一番後ろ。隣は文人。偶然ではなく、この席のコに合法的に変わってもらった。

「ありがとー。お礼にプチトマトあげるよ」

「いらん。お前が嫌いなだけだろう。好き嫌いせずに食え」

「えー、そんなことないよ。純粋なる感謝の気持ちを…」

文人と楽しく話していたのを邪魔したのは、案の定神田だった。

「お前等、授業中喋ってんじゃねぇよ。どっちが忘れた」

「彰彦です」

「ちょっ…文人君ー。そこは庇ってくれるとこでしょう」