「そんな事、俺だって…」

微かに赤らんだ頬の彼は、潤んだ瞳と相まって可愛い。

そう、彼は可愛すぎるのだ。

一匹狼のふしがある彼を懐柔するのは容易ではなかったけれど、一旦心に入り込めばこちらのものだった。

他の誰にも見せない笑顔とか、甘えた仕種とか、贅肉のない引き締まった体とか、抜けるようにすべらかな肌とか。

あげたらキリがない。

「…うゎ…文人君、可愛い!」

「だからっ、くっつくなと…」

正面から抱きしめると、俺の胸を叩いて抵抗する文人。

力も体格も上な俺からは逃れることなんか不可能なわけで。

「もういい…教室戻るぞ」

「はぁい。次は古典だねー」

結局諦めて俺の裾を引っ張ると、ちょっとはにかんで先に歩いて行った。