呼ばれた。


いや、正確には呼ばれていないだろうが、どうにもその声は俺に向けられていると思った織部が、崩れた本棚に目を配れば。


「あなた、人命救助もせずに逃げるだなんて、とんだ外道ね。まあ、家畜に人間のモラル云々を求めるのは馬鹿らしいけど。酸素吸って、二酸化炭素吐くのなら、たまには人様の役に立ったらどうかしら?」


「……」


例えようがなかった。


説明的に言えば、倒れかかっている本棚の下に女の子がいた。


赤い頭巾をかぶった女の子が本に埋もれている。


「ちょ、まじかよ!」


生き埋めっ、と目を丸くした織部がとっさに少女の手をとろうとしたが。