目は見えてないはずだが、彼女はステッキを持たず、さながら見えているかのように歩く。


長年、視力を失ったためか、彼女は音に敏感になった。


例えばの話、目の前に壁があるとしたら、彼女は壁にあたる寸前で足を止めるであろう。

これは足音が壁に“ぶつかった”――つまりは途切れたことから目の前の障害を“音で見抜く”ことができる。


コウモリの超音波と同じ原理か。跳ね返ってきた音を感じ、彼女は前を確かに見(きい)ていたのだ。