「家出した」
「家出っ?」
何でまた、と彼は笑った。
私はそんな彼を睨むと、顔を背ける。
「私の……師匠、が…遠くへ行ってしまうの」
どうして私は見ず知らずの人に、こんな事を話しているのだろう。
でも何故か、彼はちゃんと聞いてくれるような気がした。
「それを昨日本人から聞いて。私は一人でも大丈夫だよなって、笑ってた」
寂しいのは私だけなのかな。
龍飛は私と離れても寂しくないのかな…。
「もう会えなくなるかもしれないのに、私の事はどうでもいいのかなって……」
「逆だよ」
そう言って、彼は俯く私の隣に座る。
彼の声は温かくて、安心する。
「"せめて最後は笑顔で"って……そういう事じゃないかな」
顔を上げると、彼はすごく優しい笑みを浮かべていた。
「必ず帰って来るって信じて、笑顔で見送ってあげたら?」
彼の言葉は心に響く。
すんなりと胸に染み渡っていった。


