桜風月




「…凜。今日は、早瀬を送り出す日なんだ」


私が涙を拭っていると、松平様は眉を下げてそう言った。


今日。

今日、龍飛が行くのだと。


「笑顔で送り出せるか?」

「……はい。勿論です」


笑顔でそう言うと、松平様も笑みを浮かべて頭を撫でてくれた。


「早瀬もそろそろ行く時間だ。行こうか、姫」

「はいっ」


門へ行くと、龍飛が立っていた。

私達を待っていたのだ。


「早瀬、くれぐれも無茶はするな」

「はい、松平様」


龍飛は松平様に綺麗に頭を下げて、それから私に視線を向けた。


「凜」


名を呼ばれるのも、これが最後かもしれない。

それ程、今回の任務は厳しいものなのだ。


「俺が帰って来るまで、いい子にしてろよ?」


その言葉に、私は何度も頷いた。


私は松平様と龍飛以外の藩士と、まともに話した事がない。