To.カノンを奏でる君

(男になったら、花音を幸せに出来ると思ってた)


 しかし、それはどうやら違っていたようだ。


(男になったら受け入れてくれないんだな…)


 直樹は寂しそうに俯く。


 花音が唯一受け入れる男は、この世でただ一人。


 時枝祥多。


 そう思って悲しくなった直樹だったが、はたとある事に気づいた。

 早河とかいう男。そうだ、アイツも男だ。


 ここで疑問が挙がる。何故、早河という男は良くて自分はダメなのだろうかと。

 悩めば悩むほど分からなくなった。どうしても納得がいかない。


 下手に悩むより直接訊いた方がいいと踏んだ直樹は、楽譜を見ている花音に近寄った。


「なぁ、花音」

「何?」

「早河って奴、いつからの付き合い?」

「え?」

「友達っつってたじゃん」

「あぁ、高1の時に一緒に学級委員やってから何かと引き合っちゃってね」


 それからだよとあっさり答え、花音は直樹から楽譜に目を移した。

 直樹は崩れそうになるほど脱力した。聞きたい答えは、結局聞けない。


「花音は俺が男になったら嫌?」


 直樹の真面目な様子を察した花音は、怪訝そうに直樹を見やった。

 直樹は寂しそうに花音をまっすぐ見つめていた。


 どう答えれば良いのか分からず、花音は困りきった表情を浮かべながらも、率直な思いを口にした。