To.カノンを奏でる君

「怒ってないの? 私、祥多君にキスしたんだよ」


 美香子は俯いて拳を握る。

 自分より背の高い美香子が小さく見え、花音は悲しそうに美香子を見つめる。

 根は好い人。それくらい、当の昔に気づいていた。

 美香子も何かしらを抱えて頑張っている。花音はそれを感じ取っていた。


「傷ついたよ」


 花音の声に、美香子はハッとしたように顔を上げる。

 今にも泣き出しそうな顔で、花音は続けた。


「傷ついたよ。でも、誰にだって“衝動”はあるじゃない。それに美香子ちゃん、後悔してるんでしょ?」


 花音の言葉に美香子はゆっくり頷く。


「だったらもういいじゃん。後悔してるのに、反省してるのに許さないなんて双方が傷つくでしょ」


 顔を覆った美香子の肩をさすりながら、花音は直樹を見た。直樹は優しく頷く。

 祥多の方へ向く。祥多はありがとうと言いたげな表情で笑んでいた。


 花音は良かったと安堵し、美香子を心配そうに見つめる。すると美香子は俯いたままに呟いた。


「分かった気がする…。祥多君も花園君も、花音ちゃんを大切に想う理由」


 花音は首を傾げた。


「美香子ちゃん?」

「ごめんなさい」


 顔を上げ、まっすぐに花音を見つめて美香子は謝った。

 素直に謝った美香子に、花音はより一層嬉しそうに笑う。