「遅かったわね。」


お母さんが玄関をあけてくれた。

時刻は夜7時。


「恭弥の家に居たんだ。」


恭弥と言えばお母さんは安心したように笑う。


「そう。あ、その怪我、どうしたの。」

鋭い。

さすがにさっきの事を言ったらお母さんは怒って健太や恭弥を責めるだろうな。だから僕は無理に笑顔を作った。


「ちょっと外でサッカーして怪我しちゃって。恭弥が手当てしてくれたから大丈夫だよ。」


お母さんは僕の言葉を信じ、笑った。


「もう。美海は女の子なのよ。男の子と遊ぶ分は別にいいけど、あんまり無理しちゃだめだからね。」


そう言って僕を招き入れる。僕はお風呂と夜ご飯を済ませたら早めに自室に戻った。

制服以外、スカートが入ってないタンス。

少年マンガがある本棚。

男の子向けのトレーニングカードが入った箱……。

女の子の要素なんてこれっぽっちも無かった。それに一人称は僕だし、髪も短い。
そんな僕をどうやったら女の子として見れるんだろう?
僕はただ、ずっとみんなと一緒に居たかっただけなのに。

こんなに僕が女の子であることに後悔したのは初めてだ。


人を好きになる感情なんて無くなればいいのにな。

そう考えながらそのまま僕は眠ってしまった。


それから半年。

僕は中学生。でも、クラスのみんなとは絶対に話さない。話せなかった。

特に男の子とは。先生とも最低限の会話だけ。先輩とも話せない。
人と話すのが怖かったんだ。小学生の時の友達と少し話すだけで僕は精一杯。

そして、恭弥は親の都合で神奈川に行ってしまった。
僕はまだ恭弥に謝ってないのに。見送りの時、恭弥は僕に


「美海はいつもの美海でずっといてほしい。」

それだけ言って僕の前から消えた。

僕のままでずっと……。
それが僕が出来ることなら僕は守り続ける。


だからクラスでも打ち明けた。いきなりの変わりようでみんなびっくりしてたけど、それでも僕をみんな受け入れてくれた。
男の子ともあの時みたいに仲良くできた。でも、先輩は体が勝手に拒否反応を起こすからだめだった。



これが

僕が君に対する

唯一の事なら

僕は守り続けるよ。