それから何日かして、
おまえが圭条会の本部事務所の前までやって来た。

林さんは間違いなく
俺とおまえの間に何かあると勘付いていた。

だから俺にわざわざおまえを追い払ってくるように命じたんだ。

あの人の嗅覚は動物並みだ。
そして狙った獲物は決して逃がさない。


おまえは隠れたつもりだったのかもしれないが、林さんからは丸見えだ。

「おい」
「新…明くん」

その強張った顔を見てわかった。

ああ、こいつは俺が暴力団組員かどうか
確かめに来たんだってな。

俺を見た時の、その黒い瞳が
激しく揺れたからな。
すぐにわかったよ。

そうだ、俺はこの若さで
幹部にまでのしあがった。
たいしたもんだろ…

「人違いだ」
もう一度、俺は言った。

「でも…」

これ以上、なんで俺に関わろうとする?

幸せにやってんじゃねぇのかよ、
刑事やってる旦那と…

「あんた、結婚してんだろ?」

その言葉に、咄嗟におまえは左の薬指に光るものを隠した。

「じゃあ、旦那じゃ物足りないから
俺に抱いてくれってことかよ」

おまえには下品極まりない言葉なのはわかっていた。

「そんなんじゃないわ!」

わかってるよ、
そんなんじゃないって。

でも言わなきゃなんねぇんだよ。