ある日、リサが見せたいものがあると、
俺をマンションに呼び出した。
リサのマンションに入るのは初めてだ。
それにあいつの気持ちを知っていただけに
足取りも重くなる。
何となく想像できたからだ。
「亮二」
あいつは黒いシルクのブラウスのボタンを
俺の目の前で外し始めた。
まいったな…
俺はあの時と違って
やめろ、とは言わなかった。
抱く気もさらさらなかったのに。
リサは上半身裸になると、
ゆっくり背中を見せた。
「……」
言葉を失った。
「綺麗、でしょ?」
あいつの白い背中にはアゲハ蝶が2匹、
羽を広げて、たわむれている。
黒と黄色の羽が
妖しく、そして優雅に舞う。
女の身でありながら、墨を入れるなんて。
よく痛みに耐えたもんだ。
「どうしたの、亮二」
「…いや」
頭をかく俺に、リサは笑顔を向ける。
「あたしはこのアゲハ蝶に全てを捧げる」
「…リサ」
思わず俺はリサを胸に抱き寄せた。
ただこの女を
俺のために痛みに耐えたこの女を
いたわる気持ちで。
その夜、俺はリサを初めて抱いた。
今までのような打算的な感情は全くなかった。
だけど…
隣で眠るリサの髪を撫でながら、
それでも俺は
煙草を2本、吸った。


