俺は思わず女の顔を見た。
責められていると感じたのか、
うしろめたいと感じたのか、女は
「何よ!早く渡して!」
と声を荒げた。
ひったくるようにシャブを俺からもぎ取る。
そして金を投げ捨てると、女は窓を閉め急発進した。
あんな幼子がいても
このクスリには勝てない。
「母は強し」そんな言葉なんて
このクスリの前では、ただの戯言にすぎない。
俺は、あの赤ん坊から母親を奪おうとしている。
たったあれだけの覚醒剤が、
当事者の背後にいる多くの人たちを
傷つけ、苦しめ、そして悲しませる。
売るだけで、罪悪感が薄れていた俺には
あの夜の客は、衝撃だった。
でも…
それでも俺は売る。
売り続けた。
なぜだと思う?
それは俺が組織の人間になったからだ。
生きていくためだ、この世界で。
博子…
もう俺は
そんな人間になっちまったんだよ。


