つむじ風。


俺の圭条会での仕事はシャブ、
つまり覚醒剤の密売だった。

白い粉を袋に小分けして、
指定された場所で売る。

すぐに一晩で100万単位の取引を任されるようになった。

客層は様々だ。

学生、主婦、エリート会社員…
たったこれっぽちの粉に、
みんな狂ったように金をつぎ込む。

俺は取引で失敗したことがない。

やましいことをするやつは、闇に潜む。

だが俺はあえて人通りの激しい場所で取引をする。

そのほうが自然に相手と接触できる、
その自信があった。

「デリバリー」もよくやった。
クラブに飲みに行くついでに
ホステスに手渡す。

俺は順調に実績を積んでいった。


でも、忘れられない客がいる。
まだ俺がこの「仕事」を始めたばかりの頃。

指定の場所に、黒のワンボックスカーが止まった。

俺がゆっくり近付くと、
運転席の窓が開いて、帽子を目深にかぶった若い女が顔を出した。

俺が例のものを渡そうとした瞬間、
子どもの泣き声がした。

伸ばしかけた手が止まる。

その車の助手席には、
チャイルドシートに乗せられた赤ん坊がぐずっていた。