だが、最後に頭に浮かんできた人物のことはすぐに打ち消した。

あり得ない。
そんなことは絶対に。

「あの人」は俺を拾い、育て、
今の地位を与えてくれた。

だから、決してあり得ない…


携帯が静かな部屋に響き渡る。

案の定、報道を知った本部事務所からの呼び出しだった。


俺はクローゼットから一番高価なスーツを選んだ。
そして一番いいネクタイを締める。

俺の運命の時だ。
バッチリこの「晴れ舞台」
キメてやるよ…


事務所に入ると、今まで俺を慕っていた若い連中たちに取り囲まれた。


これはこれは、結構なお出迎えで。
手のひらを返すとは、こういうことを言うんだな。

まあ無理もない。

ヘマをした未来のない若手幹部と、
名実ともに将来有望な大物幹部。

どちらにつけばこの世界で生き残っていけるか、どんなバカでもわかることだ。


俺は部屋中を見渡した。
ただ一人、こちらに背を向けたままの初老の男が気にかかった。