博子。

この男は…
おまえを心底愛している。

愛して愛して、それでも愛し足りないくらいに、な。

その愛を犠牲にする覚悟で、
俺にあんなことまで言った。

男にとって、あの言葉がどれほど辛いものか…
痛いくらいよくわかる。

俺の想いなんて…
この人の足元にも及ばない…


「新明さん、もう一度あなたと剣道という舞台で闘いたいものです」

俺は地に目を落とした。


…また、おまえか…


そこには小さなつむじ風が舞っていた。

俺の脚にまとわりつくように、
彼はをカサカサ鳴らせて。

まるで慰めるかのように…

踏めばきっと消えてなくなってしまうだろう。

こんなに小さくて、頼りなくて
誰も気に留めない風。


「勝負はもう決まっていますよ」

俺は、ビルに切り取られた夜空を見上げた。

やはり都会は星の数が少ない。

でも今日はまだ多いほうか…


俺の吐いた白い息が宙を漂い、消えていく。

「こんな俺に、勝利の女神が微笑むわけない」


そう言った後に
おまえの優しい笑顔が目に浮かぶ。