「でも、旦那が刑事となりゃ、ヤバイでしょ?俺の方が」
博子の素性を知っていた。
それをあえて俺から言うことで、
俺たちが男女関係にまで至らなかったことの理由に、少しでも真実味を持たせることができる。
警察官の妻に手を出して、
圭条会の秘密を握られたら、たまらない。
下手したら、俺が組に消されちまう。
だからすぐに会うのをやめた、俺はそう付け加えた。
「では、加瀬さんはあなたが暴力団幹部だと知らなかった、というわけですか」
「言ってねぇから、知らないでしょうね。知ってたら、のこのこ会いに来ないでしょ」
次に安住は、俺と博子がガキの時に付き合っていたのではないか、と訊いてきた。
…付き合ってた、か…
俺としたことが、なぜか一瞬胸がチクリとする。
「ただの、後輩の一人ですよ」
そう言って、俺は煙草を灰皿に押し付けた。
安住さんよぉ、言いたいことはさっさと言ってくれよ。まわりくどいな。
俺はテーブルの脚を蹴り、
新しく煙草に火をつける。
苛立ちを見せることで、
相手側に早く核心部分に迫らせるために。
人の心なんて、簡単だ。
俺の筋書き通りに進んでいくんだからな。


