つむじ風。


俺は、彼女は剣道部の後輩で、
最近ばったり会って飯を食いに行った、と説明した。

具体的なことは、わざとぼやかす。

たいしてその女のことは、
気にもとめていなかった、とでもいうように。

「俺にはかまわなきゃいけない女が、山ほどいるんですよ」

安住が疑いの目を向ける。

当然だ。

これしきのことで、「はい、そうですか」なんて言えば、日本の警察は墜ちるところまで墜ちている。


「加瀬さんと会わなくなったのは、なぜですか」

「リサがうるさかったんだよ。
まだその時は付き合ってたからな」

納得していない顔のまま、
安住は、俺と加瀬博子の間に肉体関係があったかどうか訊いてきた。

「あのね、俺はもっと色っぽい女が好きなんですよ。あんな所帯じみた女、こっちから願い下げですよ」

きっとおまえが聞いてたら、
顔を真っ赤にして怒るだろうな。

口を利いてもらえないどころじゃねぇな。


そして俺はわざとらしく小声で安住に耳打ちした。

「あの女の旦那、ここの刑事なんだろ?」

「それを知ってた?」

ほら、目の色が変わった。

あの窓からのぞいてる隣の部屋の連中も、さぞかし色めき立ってるだろうよ。

「知ってたぜ、調べたからな。
あんな女でも何か役に立つかと思ってな」

あっけらかんと言ってやった。