その報告を受けた時、
俺は自分の前に立ちはだかる壁が、
いかに悪意に満ちていたか、想像だにしなかった。
「リサが売春斡旋容疑でパクられました」
それを俺は林さんと一緒に聞いた。
リサの売春斡旋から、圭条会本部事務所の家宅捜索に警察がこぎつけるのではないかと、林さんは危惧していた。
俺は決して組に迷惑がかからないよう、うまく立ち回ると誓った。
あの人の、俺を疑うような目つきを初めて見た瞬間だった。
俺はすぐさま、組の顧問弁護士に連絡をとった。
「湊川リサは、AGEHAとは別の口座に売春で得た金を入れていました。
それには一切、手をつけていなかったようです」
「その理由を、あいつは何か言いましたか」
「自分の店が持ちたかった、と」
「自分の?」
リサがそんなことを?
違う、あいつがそんなことを言うわけがない。
何か別の理由があるはずだ。
「それと警察では、クラブの名義人であるあなたがこの売春に関与してるのではないか、と疑っているようです。
しかし、湊川さんがそれを完全に否認しています。独断でやったと。
こちらも、経営権は彼女にある、という契約書があることから大丈夫だと思いますが、一度はあなたも警察に呼ばれるかもしれませんよ」
「やむをえません」
「警察はあなたの一言一句に目を光らせ、耳をそばだてています。
下手なことを言えば、事務所の家宅捜索につながりかねませんよ」
「承知しています」
「新明さん、あなたにかかっていますからね」
顧問弁護士は念を押した。


