つむじ風。


俺はわざと明るく言った。

「信用しろよ、俺を誰だと思ってんだよ。
圭条会の新明亮二っつたら、やり手で有名なんだぜ」

「もう、そんなこと私の前で自慢しないで」
涼やかな口元から、やっと冗談交じりの笑い声が漏れる。

「だから、任せろ、約束する…」
そこまで言って、俺も笑った。

「約束…おまえ嫌いだったな」

「そうよ、大嫌い」

「まいったな、じゃあ、何て言えばいいんだ」

「何も言わなくていいの」

そう言って、一度きゅっと形のいい唇を結ぶ。

「……」

「何も言わないで。
そんな言い方されると、もう…これきりだって、そう言われてるみたいじゃない」

「……」

俺の中では、もうこれが最後になるのではないかと思っていた。

林さんに目をつけられた以上、おまえにも危険が及ぶ。

敏感にそれを汲み取っておまえは言う。

「今日も、いつもみたいに、またね…って言ってくれるわよね」

「博子…」

「ね?」

俺は答えずにエンジンをかけた。
窓がうなり声をあげながら閉まる。

「新明くん…」

「もう帰るぞ」

なぁ、博子。

俺たちはお互いのこの途切れた想いを、紡がずにはいられなかったな。

たとえそれが、この身を危険にさらすことになろうとも…

たとえそれが、大切な人を傷付けることになろうとも…

紡ぎ直さずには、いられなかったよな…