「博子」
「なあに」そんな声が聞こえてきそうな、なんとも無邪気な顔で俺を見る。
「話しておきたいことがある」
その言葉に、みるみるうちに顔に不安が影を落とす。
「もし…もし俺に何かあったり、警察に目をつけられたりした時は、おまえのところに捜査の手が行くかもしれない」
「……」
「俺のことを訊かれたら、組織の人間だったことは知らなかった、そう答えろ」
「どうして今そんなこと…何かあったの?」
「何かあってからじゃ遅い。だから今言っておく」
俺はシートを起こした。
「どんなことがあっても知らなかった、そう言い通せ。わかったな」
おまえは小さく頷く。
「あとは俺が何とかする」
「何とかって…?」
「旦那を、守りたいだろ?」
不覚にも俺の声が微かにかすれた。
「心配すんな、俺が守る」
「新明くん…」
「おまえも、おまえの…家族もな」
もしもの時は、俺が全てを引き受ける。
おまえも、おまえが大切に思う男のことも、
俺が守る。
そんな顔すんなって。
おまえが選んだ男だ。
悪いようには、しない。


