車に戻って、ふたり、無言で海を見ていた。
窓を全て開け放って。
潮の香りと音が、絶え間なく包む。
シートを倒し、俺は目を閉じた。
入ってくる風は、心地いいほどに冷たい。
おまえは目を細めて、
紅に染まる水平線を見ていた。
俺にはどうしても気になることがあった。
林さんが、俺に不信感を抱き始めたようだ。
この前、おまえと会った後、呼び出されて事務所に行った。
その時俺にあの人は意味ありげなことを言い、
俺の服についていた枯草に気付いた。
そう、あの河原でついたものだ。
あの人は、どんな些細なことも見逃さない。
このままだと、おまえのこともすぐにわかってしまう。
林さんことだ、
裏切った俺はもちろん、おまえも…
おまえの旦那のことも、
必ず潰しにかかるだろう。


