そんな力の抜けた俺を、
兄貴は一番近い砂浜まで一人で引き上げてくれた。
俺はもう歩けなかった。
死ぬ恐怖を味わったばかりなのだから。
兄貴は俺を背負って、おふくろのところまで駆けた。
自分だって疲れ果てているはずなのに。
病院の廊下で、海水パンツのまま兄貴はおふくろにこっぴどく怒られていた。
診察室にいた俺のところまで聞こえてくるくらいの、おふくろの大きな声。
家に帰ったら帰ったで、
親父の前で兄貴は正座させられて、小さくなっていた。
俺はたまらず言った。
「…父さん、兄貴ばっかりが悪いんじゃねぇよ。
俺だって、ちょっとくらいはいいだろうって思って、沖まで行ったんだから」
「いや、父さん。
俺が誘ったんだよ、競争しようって」
「でも、俺だって乗り気だったわけだし」
「亮二はあっちに行ってろよ」
「兄貴ばっかり怒られるのは、納得いかねぇよ」
そんなやりとりを黙って聞いていた親父が、
突然「黙れ!」と大声で怒鳴った。
おふくろの「…もう近所迷惑ね」という小言が
キッチンから聞こえてくる。
「おまえたちが母さんの言うことをきかなかったから、こんなことになったんだろ!命を粗末にするようなことは、二度とするな!」
そしてお決まりの反省タイム。
家の外に1時間、放り出された。


