俺は浮きにしがみついて、息をきらしていた。
「ハンディやるよ。先に行けよ」
その余裕たっぷりな兄貴の態度に俺はムッとする。
「うるせぇよ」
だが正直、すぐに折り返して泳いで帰るなんて、到底できそうになかった。
「いらねぇよ、ハンディなんて」
バカにされたのが気にくわなくて、俺はネットより向こうの海面を拳で打った。
その瞬間に激痛が走る。
「ああ!」
突然のことに、俺は浮きから手を離してしまった。
クラゲに刺されたなんて、思いもしなかった。
原因不明の痛みに、余計パニックを起こす。
顔が水面から出ない。
どんなに手足をばたつかせても、かえって沈んでいく。
こちらに向かってくる兄貴の必死の形相が、波の合間に見え隠れした。
死ぬかもしれない…そう思った。
水を何度も何度も飲んだ。
「亮二!」
兄貴が俺の手を引っ張るが、ますます焦ってもがく。
「じっとしてろ!動くな!」
兄貴の両腕が、背後から回された。
「亮二!大丈夫だって!落ち着けよ」
顔がやっと水面から出た俺は、放心していた。


