つむじ風。


おまえに連れて来られた水族館は、
規模は小さいものの、なかなか見応えのあるものだった。

俺たちの他に客がいないことも助かった。

俺には一つ、
心惹かれる水槽がある。

のんびりと水の流れに逆らうことなく
ただ漂う半透明のクラゲ。

青白く光る水の中のそいつらを見てると、
自分がもがき、苦しみ生きてきたことが、バカらしく思える。



小学6年の時だった。
親父は仕事で来られなかったが、
おふくろと兄貴と俺との3人で、海水浴に行った。

おふくろは大きな塩むすびをいくつも作って、おかずには俺の好きな甘めの卵焼きをたくさん弁当箱に詰めてくれた。

「母さんは荷物をみてるから、
あんんたたちは遊んでおいで。
でも、絶対に沖へ行かないこと、わかった?」と砂浜に小さなパラソルを立てながら言った。

俺と兄貴は嬉しくて、
素足で熱い砂を踏みしめて、我先にと海へ入った。

想像していたよりも冷たい海の水に、
ふたりして声をあげたのを今でも覚えている。

「防護ネットのところまで行って、
浮きにタッチしておふくろのところまで先に帰った方が勝ちだ」
兄貴が言うので、俺は受けてたった。

だが、2歳の差は大きい。

兄貴は沖に張られた防護ネットまで、
ぐんぐん泳いでいく。

やっとの思いで、ネットの大きなオレンジの浮きにたどり着いた時、兄貴はニヤニヤしながら、立ち泳ぎで俺を待っていた。