つむじ風。


会いたい…博子!
会ってくれ…

俺は公衆電話に走った。


おふくろが死んだことを話すと、
おまえはポロポロ涙を流して泣いた。

俺でも、一滴も涙なんて出てこないのに。

「ったく、なんでおまえが泣くんだよ」

わかってた、俺のかわりに泣いてくれてることくらい。

俺は冷たいだろ?

親父が死んだ時も泣かなかった。

そして今、
おふくろが死んだと知っても、涙が出てこない。

泣き方がわからないんだよ。

ずっと泣いたことなんて、なかったからな。
悲しいことなんて、感じないようにしてきたからな…

泣けば、この心の痛みがとれるのか?
泣けば、この苦しみから解放されるのか?

「あんまり泣くと、化粧がはげるぞ」

「…あなたはね、一言一言が失礼なのよ」

「そうか?」

「そうよ」

すまんな、素直に
「俺のために泣かなくていい」
って言ってやれなくて…

でも、今に始まったことじゃないから、大目にみてくれ。

今はこうして、俺の傍に座っていてくれ…

何も言わなくていいから

ただ、傍にいてくれ…

それっきり俺は黙って、暮れてゆく空を見ていた。

ふと横を見ると、両手で顔を覆いうつむくおまえの姿。

その華奢な震える肩を、そっと抱き寄せたかった。

俺の代わりに流す涙で冷たくなったその白い頬を、この手で包み込みたかった。