俺は口を歪めて、笑った。
「今さら謝られてもな。
あの人のつまんねぇ意地のせいで、俺もあんたも酷い目に遭った。人生変わっちまったんだぜ?」
「亮二…!」
兄貴が俺の胸ぐらを勢いよく掴んだ。
手に持っていたカップからコーヒーがこぼれて、カーペットにシミを作る。
「でもおかげで俺は、この世界で成功してる」
怒りと悲しみの入り混じった兄貴の顔が、俺の目の前で小刻みに震える。
俺は口元を緩めながら、
胸元の手をゆっくりと引き離した。
「…帰ってくれないか」
「おまえ…」
「帰れよ!!」
俺が怒鳴ると、兄貴はあきらめたように荷物を持ち、玄関に向かった。
泣いていた。あの兄貴が…
「ああ、そうだ。もう一つ」
ドアノブに手をかけた時、思い出したように足が止まる。
「もう町ではおまえのことが噂になってて…
親戚や近所の目があるから、線香あげに来たり、墓参りに来るのは遠慮してくれ」
ドアの閉まる音が部屋中に響き渡った。
俺は肩で息をしていた。
苦しくて、頭が真っ白だ。
『母さんが死んだんだよ、半年も前に』
…長生きしろって、言ったじゃねぇかよ!
窓ガラスに額を押し付けた。
ひんやりとした感覚が伝わってくる。
「バカが…」
俺は頭をかきむしった。


