俺は何とか窓の外に視線を戻した。
どこを見ても焦点が合わない。
「もっと早く知らせたかったが、
なかなかおまえの居場所がわからなくて」
…おふくろが、死んだ…?
信州の地獄のような家を出る時に、
あの小さな体に、布団をかけたのを思い出す。
「やっと見つけた、と思えば!
亮二!おまえ…!」
そう言って立ち上がると、詰め寄ってくる。
いつの間にか、俺の方が兄貴よりも背が高くなっていた。
「こんな…こんな暴力団の…
しかも幹部になってるなんて!」
責めるような目つきだった。
「…なんだよ」
俺は冷たくそんな兄貴を見下ろす。
「父さんも母さんも、どれだけ悲しむか!
考えたことなかったのか!」
「バカ言ってんじゃねぇよ。
死んだ奴らが悲しむかよ」
「亮二!」
「ったくよ、こんなとこまで押しかけてきて」
「母さん、死ぬ間際までおまえに謝りたいって、何回も何回も。
意識がなくなっても、うわ言のように、ずっと言ってたんだぞ」
兄貴と俺の視線が、まっすぐにぶつかる。


