「コーヒーでいいか?」
ほとんど使わないキッチンから、
リビングに向かって訊く。
「…ああ」
ソファーに腰掛け、うつむいたままの兄貴。
コーヒーカップをテーブルに一つ置き、
俺は窓際に立った。
何から話していいのかわからない。
15年ぶりに会ったのに…
いや、15年ぶりに会ったからだ。
「おふくろは元気か?」そう訊きたかった。
だけど、できない。
俺には負い目があったから。
兄貴とおふくろを捨てた、という負い目が。
しばらく、重苦しい沈黙の中、
俺は味もよくわからないコーヒーを何度も啜った。
「…ずいぶん探したよ。半年もかかった…」
俺は兄貴を振り返った。
するとうつむいたまま
「母さんが、死んだよ」
と呟くように言った。
「死んだんだよ、半年も前に」
心臓が大きく波打つ。
「毎月、金を送ってくれてたの、おまえだろ?
ありがとうな。
あれで母さんも手術を受けることができた。
本当に感謝してるよ。
…でももう送らなくていいから…」


