「きみひろ君?」 彼はびくっと視線を あげ、口元をゆがめ た。かげった瞳には おびえをたたえてい る。 「ごめん」 言うなり、弾かれた ように走り出した。 つられてかけだした ものの、あっという 間に距離をつけられ てしまう。 「きみひろ君!」 大声に驚いた雀が、 空に散らばる。 「きみひろ君!」 雀より小さくなった 、彼のうしろ姿が遠 ざかっていく。 「どうしたんだろ」 息を切らせてしゃが みこむ。心配と不安 と不快感が、もやも やと視界を漂う。 汗が、ぽつんと地面 に落ちた。