■海side■
「海、そろそろ出た方がいいんじゃないの?入学式から遅刻なんて洒落になんないでしょ」
部屋の中から、ベランダで空を見つめる俺に姉貴がしつこく話しかけてくる。
時計を見れば、本当にそろそろ出ないとまずい時間だった。
「…言われなくても行くって」
素直なことが言えないのは、多分…親父に似たんだと思う。
姉貴は、鏡の前で栗色の髪を丁寧に巻いていた。
あの栗色の髪は、きっとお袋に似たのかな。
そんなことを考えながら靴を履けば、姉貴が見送りにわざわざ出てくる。
「入学式、ちゃんと行くからね」
「…あっそ」
姉貴も女の中では割と背が高い方だと思うけど、いつの間にか俺の方が高くなった身長のせいで、姉貴は見上げる形でそう言った。
わざわざ大学を休んでまで、来なくていいのに。
そうは思ったけど、あの日から姉貴が俺のことを一番に思ってくれてんのは、嫌でもすごく伝わるから。あえて口には出さないでおいた。
「…きっとお父さんとお母さんも来てくれるよ」
玄関を出る前に姉貴が言った言葉に、一瞬足は止まりそうになったけど。
「…行ってきます」
俺の足が止まることはなかった。
もう二度と、過去は振り返らないって決めたから。

