そう言って渡したそれに唯人は苦笑気味であたしを見た。
「何これ、黒染めしろって?」
唯人の髪は小学校の時からずっと金に染められていて。その理由だって、あたしを思ってのものだった。
「真帆がどこにいても、俺を見失わないように」
金色になったその髪に驚くあたしに、あの日唯人はそう言った。
そんなの金色になったところで、たいして変わらないことだけど。小学生だった唯人に出来た精一杯の優しさに、あたしはすごく嬉しかったのを覚えてる。
あの日から、唯人の髪が黒に戻ったことは一度もない。
「だって、高校で目つけられたら大変だよっ」
そうは言ったものの、本当はそんなことどうだっていい。
ただ、唯人は顔も結構整っててただでさえモテるから、あまり目立たないでほしかっただけだ。恋愛感情はないけれど、やっぱり大切な幼なじみが女子に囲まれるのは、あまり嬉しいことではない。
「…大丈夫、あたしはもう唯人のこと見失わないよ」
最後にそう付け足した。
小さい声になってしまったのは、唯人が覚えているかどうか分からなかったから。
「…ったく。真帆の言うことは聞いておかないと、俺の親がうるせぇからな。」
優しく笑って染髪料をかばんにしまった唯人は、多分あの日のことを覚えててくれたんだと思った。
あたしの頭をポンポンする唯人に、あたしも微笑み返す。
小さいことだけど、この瞬間が何よりも幸せで。
あたしはそっと瞼を閉じた。

