■咲哉side■







学校なんて、別に行きたいと思わない。


ずっと引きこもってた部屋から、俺は久しぶりに出た。




「咲哉、久しぶりね」



俺の顔を見るなり、母はそう言った。


嬉しがるわけでもない。ただ憐れむような、馬鹿にしたような表情だったけど、別にイラつきはしなかった。



「学校、行くんだ」


俺が制服を着てるのがよっぽど珍しく感じたのか、ずっと鏡に向けていた視線を俺の方へと移しながら母は言う。



別に、行かなくたっていい。


そう思っているはずなのに、それでも足が学校へと向くのは多分、心のどこかで期待してしまっているから。


俺を変えてくれる存在に。


出会えるなら、そんな人が良い。



「…入学式だから」


母の顔も見ずに、俺は答える。


「母さん、行けないけど」


そう言った母の視線は、いつの間にか鏡へと向き直っていた。


どうせ、行けない理由なんてたかが知れてること。


いつもよりきつい香水の匂いが、それを確信させた。


「…別に、いいわよね」