この無駄な広さが、時にあたしを底のない孤独へと導くことを、パパは知っているのだろうか。



長い廊下を越えて、やっとたどり着いた玄関で新しい靴へと足を通す。


まだ履きなれないその靴は、少し違和感があった。



「行ってらっしゃいませ、ルナ様。」



こんなに広い玄関であたしを見送ってくれるのは、佐伯さんただ一人だけ。


もう慣れたつもりでいたけど、入学式の今日くらい、両親にも見送ってほしかった。


「行って…きます」


たった一人見送ってくれる佐伯さんの顔も見ないで、言ったそれは、自分が思っているよりも冷たくて、寂しい声だった。



ドアを開けて外に出れば、庭を掃除しているお手伝いさんと目があった。


「行ってらっしゃいませ。制服、とてもよく似合っていらっしゃいますよ。」


聞きたいのは、その声じゃないのに。


本当に聞きたい声は、庭を通り過ぎ、門から出ても聞こえてくることはなかった。



あたしが欲しいのは、こんな大きな家じゃない。


ピカピカと光る程きれいな靴でもない。



ただ、「好きだよ」っていうその一言が欲しかった。




もっと小さな家でいいから。


新しい靴じゃなくても文句言わないから。



――――――――あたしを、愛してよ。