毎回毎度のことなのだが土日のバイトはとてもきつい。一体どこから客が湧いてくるのか、末里櫂のバイト先である喫茶店は今日も大繁盛だった。
「ただいま……」
「あ。お帰り櫂~」
早番が終わって夜の七時半に自宅に着いた。日が暮れても暑い外からクーラーの効いた室内に入り、ようやく櫂は人心地着いた。最近は、姉の加菜子も帰りが遅くなるようなこともなく、夕食も一緒にとるようになった。彼氏がいたときは、夜中の十一時頃に車で送られてくることしばしばだった。その度に、櫂はその男を何度はり倒そうと思ったかしれない。
けれども加菜子は彼氏に振られ、あれから一ヶ月が経っていた。
「ちょうどご飯ができたところなのよ。一緒に食べよう」
加菜子はエプロン姿でキッチンカウンターから出てきた。片手にはおたまを持ったままだ。どうやら今日の休暇はシチュー作りに精を出していたらしい。ごく普通のシチューであることを願いながら櫂はソファに沈む。それにしても今日の加菜子はずいぶん上機嫌だ。
準備も終わりふたりきりの食事は始まった。両親はそろって海外生活をしている。櫂の父親が外資系の商社に勤めていて ここ数年は海外出張でイギリスに渡っていた。
「ねーねー櫂。今日ね、櫂に電話があったよ?」
「誰から?」
「うふふふ~。誰だと思う?」
加菜子は、スプーンの先を口元に当てたまま悪戯を始めた子供の笑みになる。こういう笑い方をする時は、たいてい櫂の揚げ足を取ろうとしている時だ。
「大学の連中じゃないのか?」
ふたりは同じ大学だったので櫂の友達のほとんどを加菜子は知っていた。しかし加菜子は首を横に振る。
「ん~ん。わたしの知らないコ」
「……コ?」
「そう。お・ん・な・の・コ!」
そういうと加菜子は櫂の隣に移動してきた。
「ちょっとかい~。一体いつ樫木美和ちゃんなんてコ、口説いたのよ? お姉さんにいってみ?」
「樫木?」
「そう。美和ちゃん。とっても綺麗な声だったわよ~。ねーねーねー大学にはいなかったよね? それとも新入生?」
加菜子が横からまじまじと櫂の顔を覗き込んできた。無表情のままに櫂は胸を跳ねあげ息を詰まらせる。少し身を引き気味にして答えた。
