「別れても、好きでいていいですか…?」

「次の部屋が決まるまででいいの。だからお願いします!」

そういってパチンと両の掌を合わせる美和に、櫂はため息をつくしかなかった。

 こうして加菜子と美和、そして櫂の三人暮らしが始まることになる。

「ほんっとうに、次の部屋が決まるまでなんだよな?」

「もちろん。そのつもりよ」

 美和は楽しそうに笑っている。

「おまえいったい何を考えているんだ?」

「何ってもちろん、櫂くんのためを思ってわざわざ引っ越してきてあげたんだから。感謝してほしいくらいですけど」

「はぁ?」

「じゃあ聞きますけど」

 美和はくるりと反転して正対すると、白くて細い人差し指を櫂の鼻先に突きつけた。

「櫂くんはこれから、お姉さんとふたりっきりでこの家で住んでいく自信あるわけ?」

 そういわれ櫂は口ごもるしかなかった。

「まったく。いったい何のために一人暮らしをしたのやら」

「おまえはこの前の夜のことをいっているんだろうけど、あれは本当に何も──」

「わかってるわよ。そんなこと」

 美和は櫂をねめつける。

「でも、あなた達の関係は元に戻らないわ。この先、決して。だからきたのよ」

 そういうと美和は櫂から顔をそむけた。しばらくは俯きがちに引っ越し作業を眺めていたが不意に明るい声で「あ。そうだ」と呟いた。

「やっぱりご両親にもご挨拶をしておいた方がいいと思うんだけど」

「奴らが帰ってくるのは正月くらいだよ」

「なら電話だけでも──」

「あ・の・な」

 櫂はぐいっと詰めよる。

「次の部屋が決まるまでの下宿なんだから必要ないだろ?」

「あら。わたしは礼節を重んじるタイプなのよ? それに次の部屋が決まるまでとはいったけれど、年内に次の部屋が決まるだなんて一言もいってないし」

「はぁ!?」

「ということで、あとで状況をご両親に説明しておいてよね」

「っておい!」

 美和は二階から作業員に呼ばれて自室となる部屋に行ってしまう。

「……どういう神経しているんだ。あいつは」

 櫂は玄関先で立ちつくすしかなかった。