美和はばっと顔を覆う。
「このまえわたしの部屋にきたとき、あんなことやこんなことをしたくせに!」
「お……おい?」
「したいようにしたらもう他人だなんて!」
「オレがいつおまえの部屋に行ったんだよ!?」
あからさまな泣き真似だったが、たぶん加菜子はコロッと騙されている──案の定、櫂はぐいっと耳を引っ張られた。
「いてててて──!」
「ちょっと櫂! あなた彼女に何をしたの!?」
「何もしてないっていうかこんな猿芝居に騙されるなよおまえ!?」
「だいたい! 彼女は櫂の恋人なんでしょ!? 自分の大切な人が困っているときにあなたって人は!」
「ちょっと待て! だからそういう問題じゃなくて根本的に誤解が……!」
「わたしとは遊びだったのね~!」
「樫木! おまえ面白がっているだろ!?」
「かい~!」
状況は、修羅場と化していた。
翌水曜日。
午前中のうちに引っ越し会社のトラックめいっぱいの荷物を積んで美和は再び現れた。
「それじゃ荷物は二階突き当たりの部屋にお願いしまぁす」
美和は玄関先で作業員にてきぱきと指示を与え始める。昨日の今日で引っ越しを始められるということは、もうずっと前にすべて計画済みで諸々の手配は終わっていたということなのだろう。
ちなみに美和が下宿することになった決め手の一言は「つまりね。大家さんに追い出された・追い出されないなんて関係ないのよ。だってわたしの部屋がなくなっちゃったことに変わりないんだもん」だった。部屋はすでに解約しているといいたいのだろう。
