「別れても、好きでいていいですか…?」


スタート・ラインー

「今日からお世話になります、樫木美和です。どうぞよろしく」

 大荷物を持っていきなり玄関に現れた美和を見たとき、櫂は呆気にとられて言葉を失っていた。

 櫂の隣にいた加菜子は目を丸くしながらいった。

「あの……お世話に……って……?」

「わたし、この家に下宿させて頂きます!」

『……はい!?』

 櫂と加菜子、姉弟の奇声は見事に重なっていた。

 単刀直入にいってしまえば末里櫂は実の姉・加菜子に惚れていた。

 もしかしたら血の繋がらない姉弟なのかもしれない──昔はそう思って戸籍を調べたりもしたが、加菜子は正真正銘 実の姉で櫂は紛う方なき本物の弟だった。加菜子も産まれたての櫂を見た記憶があるそうなので疑いの余地はなかった。

 しかしもしかすると病院で子供を間違って渡してしまったかもしれない。医者だって人の子なのだから ひょっとしたらひょっとする。だからDNA鑑定をしたら本当は血が繋がっていないかもしれない──。

 そんな、万に一つもなさそうな可能性にかけるほど櫂は夢見る少年でもなかったが。

「な・に・を、考えているんだおまえは!?」

 リビングルームいっぱいに櫂の怒声が広まった。

 向かいのソファに座る樫木美和は素知らぬ顔でお茶などすすっている。馬鹿丁寧に加菜子が出したお茶だ。

「何をって。だから下宿させてほしいって考えているんじゃない?」

「なんでうちがおまえを下宿させなくちゃならないんだ!」

「だってわたしの友達で部屋が余っているところ ここしかないんだもん。けっこう一人暮らしとか多いのよね」

「自分のアパートは!?」

「追い出されちゃった。エヘ」

「はぁ!?」