「ほんとに?」
「ああ」
「ほんとのほんと?」
「本当だって」
「それじゃ、わたしほしいな」
櫂は小さなため息を一つ、ついた。
「どうして女子は、ボタンなんかほしがるんだ?」
「それは末里くんが、大人になったらわかると思うよ」
ふたりが成長して、大人になって、今日のこの日が、思い出になったなら。
末里櫂はきっと、思い出すから。
「はいよ」
櫂は沙奈にボタンを手渡した。沙奈は両手で包み込むように、そのボタンを受け取った。
「ありがとう」
そういったつもりだったのに、たぶん声にはなっていなかった。
戸惑う櫂の声が聞こえたが、意味はよくわからなかった。
けど、他に何ができたんだろう? 誰なのかは知らない。でもわかる。ずっと彼を見てきたのだから。末里櫂には好きな人がいて、それは自分じゃない。藤沢沙奈ではない。
だから何ができたというんだろう?
それでも何かをしなければならなかったんだろうか?
「末里くん」
本当は唇がよかったんだけど、怒られそうだったから、頬にした。
沙奈は櫂にキスをする。
そのとたん、周囲から猛烈な歓声が巻き起こった。周りは告白しあっている男女ばかりのはずだったのに、いつの間にか櫂と沙奈の一挙一動が注目されていたらしい。びっくりした。
「がんばってね」
ぽかんとしている櫂に伝えたその言葉が、最後だった。
沙奈は赤くなった瞳にめいっぱいの想いを込めて、笑顔を送った。
そして駆け足で、櫂のもとから離れていく。
沙奈は二度と、振り返ることはなかった。
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