卒業式
桜の蕾は少しずつほころびて、桃色に染まり、それに呼応するかのように世界のすべてが淡く煌めいていた──卒業式。
彼はその、暖かな光景の中にいた。
「末里くん」
桜並木が続く正門前。
その広場に、たくさんの生徒たち。
手には卒業証書が入った筒ケースを持ち、今日で最後となる学生服に包まれながら、高く澄んだ青空の下。
まだ冷たさが残る春の風が、藤沢沙奈(ふじさわさな)のスカートを撫でていった。
「ん? ああ、藤沢」
男友達と話していた櫂が振り返る。背後で沙奈の友達が、にわかに歓声を上げた。
──けっきょく沙奈の好きな人って、誰だったのよ?
きっかけは友達のそんな一言だった。卒業式が終わったあと、みんなと輪になっていつまでもおしゃべりをしていたら、不意にそんな話になっていた。
いや、不意なんかじゃなかった。告白したとかしないとか、話題はそんなことで持ちきりだったから。それが気づけば沙奈の番になっただけの話で、いうつもりはなかったしいったつもりもなかった。でもずっと、視線は探していた。彼のことを。
だからばれてしまって、みんなの輪の中からポンッと押し出された。
一人きりになったその向こうに、学らん姿の末里櫂がいる。
いつも"ぶあいそ"で、いつも無口で、いつも怖そうで、でも本当はとても優しかった彼がいた。
